母は、お休みを満喫してしまいました。
え?どこでって?
あんまり、教えたくないんだけど、いろいろ行ったんだけど、
とりあえず車で5分のネットカフェで
マンガ読んでましたっ。
家で読みャいいんじゃない?
と、おっしゃるかもしれませんが、家じゃだめなんです。
近所の地区センターでもだめなんです。
だって、地区センで近所の友達親子にでも会ってごらんよ。
たちまち噂よ。
「Iさんちのママ、地区センのソファに寝そべってNANA読んでたわよ」
「え?私は厚切りバアム食べながらNARUTOを嬉しそうに見てたって聞いたわよ」です。
あくまでも想像ですが。
家では、もう読み飽きちゃった本しかないし、電話は鳴るは、家事は気になるわ、猫がじゃまするわで、心からリラックスは無理です。
主婦なんて、そんなものです。
子ども達を学校に迎えに行って、家に帰ると、チイの姿が見えません。
二階で昼寝でもしているのかと思えば、庭のサッシが少し開いています。
しかも、またまた網戸がずたずたのぴらぴらにやぶかれています。
ひ、ひどい
直したばっかりなのに。
そんなに、この家がいやなのかい。
夕方、K太郎のピアノを送った足で、T蔵とFスーパーへ行き、買った食料品を家に置きにいったついでに、チイを探しましたが、やはりまだ帰っていません。
なんて不良娘。
洗濯物を入れるついでに、両隣の庭を覗いてみても、姿が見えません。
まあ、いつものように、そのうち帰ってくることでしょう。
K太郎を迎えに行き、今度は三人でK-ナンに向かいました。
夏休みの自由工作の材料とヒントを得に、巨大DIY店はうってつけです。
いろいろな作品のパーツや、パックに入った工作セットや、オーナメントが置いてありました。
私達が一番気にいったのは、木切れです。
袋に詰め放題で320円とは、お得です。
小さい積み木状に切ってあるものもあります。
三人で、目当ての形の木切れを探して、ワゴンをごそごそしている姿を他の買い物客が白い目で見ていますが、当然気にしません。
猫砂、餌、金魚の水替え用のポンプなど、大荷物を車に乗せ、帰ってきました。
家の中に、チイの姿がありません。
時間はもう6時です。
あきらかに遅すぎます。
K太郎は心配で心配でしかたがないようです。
しきりに「チイ、餌食べてないよ、遅いよ、どうしたのかなぁ」とつぶやいています。
「なんかあったのかね」などと、夕飯のしたくをしながら、適当に受け答えしていました。
私としては、自分で出ていった猫だから、納得すれば帰ってくるだろうと、のんびりかまえていました。
すると、突然、
うわぁぁぁぁぁ~んとK太郎が泣き出すではありませんか。
こっちもあわてまくりです。
もう、口もきけない状態です。
こんななきかた、赤ちゃんのとき以来です。
カイコが死んだときよりも泣いています。
お風呂あがりで、パンツもはかずに泣きじゃくるなんて、尋常ではありません。
やっと落ち着いて、よくよく話しを聞けば、原因はやっぱりチイが心配だったのです。
はだかんぼうの長男をヨシヨシしながら、母は考えました。
この夏は、K太郎にとって、とてもハードな日々といえるでしょう。
母は、毎日パートで留守。
弟の面倒をみなくてはいけない。
いやなスイミングスクールも、子どもだけでバスに乗らなくてはいけなかったし、勉強もピアノも難しくなってきた。
宿題もどっちゃりあって、まだ残っているし。
自分のカブトムシはカブ蔵にいじめられて死んじゃうし。
やっと毎日帰るようになったパパは今度は入院しているし。
かわいがっていた猫は行方不明になるし
いやなことばっかりなのかもしれません。
どうしましょう。
母として、どうフォローしましょう。
なぐさめる?
お菓子でもあげて気をまぎらわせる?
パートを休んで、残りの夏休みをいっしょにいてあげる?
どれもNOです。
「泣いている暇があったら、探してきな!
ママはね、チイにだって、カニだって、魚だって、もちろんあんたたちにだって、十分に世話して、愛情をそそいでいる。
勝手に出ていった猫の心配までしていらんないよ!
それともなにかい?
迷い猫のチラシでも作って配れってかい?
ママがパソコンでも使って作れっていうのかい?
冗談じゃないよ。
もう、これ以上甘えるなよ。
そんなに心配なら、泣いていないで、探しておいで!!
チイだって、カニだって、魚だって、ムシだって、ママが世話しているんだよ。
あんたたちが連れてきたのに、ママに言われなきゃなんにもやりゃしないじゃないか!
泣いて待っているだけじゃ、なんにもならないよ!!」
と、
追い出しました。
泣いている長男。
鬼です。
鬼母です。
でも、なんにもしないで、家でメソメソしているだけの男になってほしくないんです。
暗くなっても、不安になっても、まず、考えて、行動する人間になってほしいんです。
しばらくして、
K太郎は帰ってきました。
「チイ、いなかったよ」
「そう、気がすんだかい?」
「うん、ちがう猫がいた」
「灰色のちびでしょ?」
「わあ、ママ、なんで知っているの?細くてかわいいやつだよ」
「そりゃ、知っているよ、近所の猫くらい調査済みさ」
子ども達は、この夏、近所の猫の顔すら、知らなかったのです。
別に、外をほっつき歩いてほしいわけじゃない。
ただただ、ママやパパの帰りを、ただ待って、
大人がどこかに連れていってくれるのを、首をながくして待って、
そんなふうに見えてしまうのです。
子どもって、そういうものなのかしら?
いや、ちがうと思う。
今日だって、Hまっこに迎えにきてくれる母を今か今かと校門で一人K太郎は待っていたのです。
エンジョイしていたT蔵には、えー、もう帰るのぉ?と文句を言われたというのに。
私が子どもの頃の夏は、
ババやジジはきびしかったけれど、
私は、なにひとつ言うことを聞かず、
友達がいなくたって、
勝手に外に出て遊んでいました。
公園が庭みたいなもんでした。
夕方になるのが残念なくらいで、親が迎えにくるのが見えると、思わず逃げてしまったものです。
うーん、どうしようか。
どうして、こうなっちゃったのかな。
そうそう、問題児のチイは、夕飯時に「にゃ~」なんて言いながらひょっこり帰ってきました。
その姿を見て、安心して、またK太郎は号泣しましたとさ。
ちゃんちゃん。